見落としがちな高齢者の水分補給:脱水から守る毎日のコツと飲み物の工夫
「シニア食の未来ラボ」をご覧いただき、ありがとうございます。ご自宅で高齢のご家族を介護されている皆様にとって、毎日の食事準備や栄養バランスは大きな関心事であることと存じます。しかし、食事と同じくらい大切でありながら、つい見落とされがちなのが「水分補給」ではないでしょうか。
高齢者の体は、若い頃と比べて脱水状態に陥りやすい特性を持っています。喉の渇きを感じにくくなったり、トイレに行く回数を減らしたいという思いから、無意識のうちに水分摂取を控えてしまったりすることもあります。
このコラムでは、高齢のご家族を脱水から守るための、毎日の生活に無理なく取り入れられる水分補給のコツや、飲み物の選び方について具体的にご紹介します。ご家族の健康維持のために、今日から実践できるヒントを見つけていただければ幸いです。
なぜ高齢者の水分補給が特に重要なのか
高齢になると、体の水分量が全体的に減少する傾向にあります。また、以下のような生理的な変化が、脱水のリスクを高めます。
- 喉の渇きを感じにくい: 加齢により、脳の喉の渇きを感じる機能が低下し、体は水分不足でも「喉が渇いた」と感じにくくなります。
- 腎機能の変化: 腎臓の機能が低下すると、尿を濃縮する能力が落ち、水分を体の外へ排出しやすくなります。
- 体内の水分量が減少: 成人の体は約60%が水分でできていますが、高齢になると約50%程度まで減少すると言われています。
- 服用中の薬の影響: 利尿作用のある薬や、その他一部の薬剤が体内の水分バランスに影響を与えることがあります。
- 病気による影響: 発熱や下痢、嘔吐、糖尿病などの病気は、体から多くの水分を失わせます。
脱水は、単に喉が渇くだけではなく、倦怠感、めまい、ふらつき、頭痛、便秘、食欲不振、さらには意識障害や熱中症のリスクを高めるなど、全身の健康に悪影響を及ぼす可能性があります。日々の細やかな水分管理が、ご家族の活動的な生活を支える大切な要素となるのです。
毎日の水分補給を習慣にする具体的なコツ
水分補給は、一度にたくさん摂るよりも、こまめに少しずつ摂ることが効果的です。以下に、日常生活で実践しやすい具体的な工夫をご紹介します。
1. 飲み物の種類と選び方
- 基本は「水」や「麦茶」: カフェインを含む緑茶やコーヒー、紅茶は利尿作用があるため、摂りすぎには注意が必要です。カフェインを含まない水や麦茶、ほうじ茶などを中心に提供しましょう。
- 経口補水液の活用: 発熱や下痢などで脱水が疑われる時、あるいは暑い日の外出後など、より迅速な水分・電解質の補給が必要な場合は、経口補水液が有効です。ただし、日常的な水分補給としては、塩分や糖分が多いため、医師や薬剤師と相談の上、適切に活用してください。
- ゼリー飲料やとろみ剤: 飲み込む力が低下してむせやすい方には、ゼリー飲料や、飲み物にとろみをつける「とろみ剤」の活用を検討しましょう。とろみ剤は、飲み物の流れをゆっくりにし、誤嚥のリスクを軽減するのに役立ちます。専門家のアドバイスも参考にしながら、適切な濃度を見つけることが大切です。
- 糖分の多い飲料への注意: 清涼飲料水や果汁100%ジュースは糖分が多く含まれている場合があります。飲みすぎると血糖値の上昇や肥満の原因になる可能性があるため、量に注意するか、薄めて提供するなどの工夫が必要です。
2. 飲み方を工夫する
- 「喉が渇く前に飲む」を意識する:
高齢者は喉の渇きを感じにくいため、時間を決めて積極的に水分摂取を促しましょう。
- 起床時: 寝ている間に失われた水分を補給するために、コップ一杯の水を。
- 毎食時: 食事と一緒に水分を摂る習慣を。
- 食間: 決まった時間に少量の水分を。例えば、午前10時と午後3時のおやつの時間など。
- 入浴前後: 汗をかく入浴の前後に。
- 就寝前: 寝ている間の脱水予防に、少量(コップ半分程度)の水を。
- 「見える化」で意識を高める:
- 常に手の届く場所にコップや水筒を置いておく。
- カレンダーやスマートフォンのリマインダー機能を使って、水分補給の時間を知らせる。
- 飲みやすく楽しい雰囲気作り:
- ご本人の好きなデザインのコップやストローを用意する。
- 「一緒に飲もうか」と声をかけ、介護者も一緒に水分を摂る。
- 夏場は冷たい麦茶、冬場は温かいほうじ茶など、季節や好みに合わせて温度を調整する。
3. 水分を多く含む食品の活用
飲み物だけでなく、食事からも水分を摂ることができます。
- 汁物を積極的に:
味噌汁、スープ、お吸い物など、汁物を献立に加えることで、自然と水分量を増やすことができます。具材を工夫すれば、栄養も同時に補給できます。
- 例:具だくさんの味噌汁 (だし汁、豆腐、わかめ、旬の野菜をたっぷり入れる)
- ゼリーやフルーツ:
間食には、水分の多い果物(すいか、みかん、ぶどうなど)や、手作りのゼリー、プリンなどがおすすめです。特に夏場は、冷たいゼリーやシャーベットが喉を通りやすく、水分補給にもなります。
- 例:フルーツゼリー (市販のゼリーの素と好みのフルーツで簡単に作れます)
- とろみのある煮物など: あんかけ料理やとろみをつけた煮物なども、水分を多く含むため、食事からの水分補給に繋がります。
こんな時は専門家へ相談を
日々の水分補給に努めていても、ご家族の様子に異変を感じた場合は、速やかに医師や医療従事者に相談してください。
- 尿の量が極端に少ない、色が濃い
- 皮膚がカサカサしている、口の中が乾いている
- 元気がない、ぼんやりしている、意識がはっきりしない
- めまいやふらつきが頻繁に起こる
特に、持病をお持ちの方や、複数の薬を服用されている方は、適切な水分補給の方法についてかかりつけ医や薬剤師に相談することをお勧めします。
まとめ
高齢者の水分補給は、ご家族の健康を守る上で非常に重要でありながら、その必要性が見過ごされがちなテーマです。喉の渇きを感じにくい、トイレを気にするなど、高齢者特有の理由から水分摂取が不足しがちであることを理解し、毎日の生活の中で、介護者が意識的に、そして温かくサポートしていくことが求められます。
このコラムでご紹介した「喉が渇く前に飲む」「飲みやすい工夫をする」「食事からも水分を摂る」といった具体的なヒントが、皆様の介護の負担を少しでも軽減し、ご家族の安心で健やかな毎日に繋がることを願っております。一人で抱え込まず、ご家族や専門家とも相談しながら、共にできることを見つけていきましょう。